肥料の基礎知識
1.文明は農耕と共にともに始まった。
 人間が農耕を始めたのはざっと1万年前だといわれています。大きな文明が誕生した地域はいづれも食料生産性が高かった大河の辺
で、余剰食糧が確保されてこそ可能でした。エジプトのナイル川・メソポタミアのチグリス・ユーフラテス川・インドのインダス川・中国の黄
河等がその典型です。人間は農耕を始めて以来、食料生産性が高くしかもおいしいものを目指して品種改良の努力を長い間続けてきま
した。これが現在の栽培作物です。


2.どんな肥料が使われてきたのか?
 人間が意図的に作物を栽培する場合、より多く収穫するためには自然から供給される養分だけでは不足します。日本で始めて「肥料」
という言葉が使われたのは明治時代のようです。それまでは「こやし」といっていました。その素材は
人糞尿・干し魚・菜種油粕・堆きゅう
等で、戦前までは「人糞尿」もりっぱに商品として流通していました。いわゆる化学肥料も戦前からありましたが、価格も高く本格的に普
及したのは戦後になってからです。


3.化学肥料の登場
 人口が大幅に増加して食料不足が心配になるに従ってさらに効率のよい肥料が求められるようになりました。科学の発展にともない、
作物が最も必要とするのが
窒素・燐酸・加里だとわかるようになると、天然に存在する空気・燐鉱石・加里鉱石からこれらを抽出する技
術が開発されました。これにより農産物の生産性は飛躍的に増大し、天候不順をのぞいては先進国では食糧危機から解放されました。

 窒素肥料…空気中の窒素やアンモニアを尿素にする
 燐酸肥料…大昔の動物の遺体や鳥の糞が化石化した燐鉱石を吸収しやすいように加工したもの
 加里肥料…大昔の海水などが干上がって岩塩化したものから不純物を取り除いたもの

<各種ミネラル分の働き>
成分 元素記号 効果
窒素 N 窒素はタンパク質を作っているアミノ酸や光合成をする葉緑素の構成元素。窒素が不足すると作物は緑色が薄くなり正常に生育
ができません。収量にも大きく影響します。肥料として最も効果の大きい要素です。
燐酸 P 燐酸は遺伝子のもととなる核酸やリン脂質を作りエネルギーの伝達や物質の合成などに関係しています。燐酸が不足すると水
稲では分結が悪くなり、果実の収量も悪くなります。火山灰土壌では燐酸が固定されるので燐酸を継続的に施す必要がありま
す。
加里 K カリは作物の細胞液に溶けた形で存在し、タンパク質の合成、炭水化物の代謝など重要な役割を果たしています。カリが不足す
ると古い葉っぱから白っぽい特徴的な斑点が現れます。
カルシウム Ca 土壌改良に重要な役割を果たす。葉に多く含まれ葉の代謝時の有機酸を中和し、作物内の糖分の移動に関与する。欠乏すると
葉の先端の伸びが止まり、吸収要素のバランスが崩れるので病害が発生しやすくなる。
マグネシウム Mg 葉緑素を構成している要素(緑色の素)。甘みの強い果実にはMgが多く含まれる。作物体内の成長の盛んな新芽や実へ移動し
やすい性質がある。欠乏すると古葉から黄化が始まり、葉脈間が黄色くなり、「トラ葉」となる。
ホウ素 B 欠乏すると細胞膜の形成が悪く、成長が止まりCa成分の組織内移動補助力が弱まる。先端部の細胞液が酸性となり細胞分裂
の盛んな部位が黒く枯死する。特に根菜類は輪切りにすると円状の赤褐色の斑点や黒変がでる。
マンガン Mn 葉緑素の形成に貢献し、酵素作用を促進させ、炭水化物の同化やビタミンCの生成に関与している。欠乏すると葉が黄色くな
る。
Fe 葉緑素の生成に関与し、欠乏すると葉が黄白色化する。窒素の代謝作用とも関係があり、欠乏すると病気にかかりやすくなる。
また葉が萎れ、作物全体の勢いが悪くなる。
亜鉛 Zn 作物全体の酵素の働きを助けている。欠乏すると作物体内に硝酸態窒素が集積し生育が悪くなり、タンパク質やデンプン合成も
悪くなる。さらに節間の伸長が悪くなり、密生状になるので作物が正常に伸びず葉が小さくなる。
Cu 根に多く存在し、根の酵素の働きや酸化還元に関与している。欠乏すると光合成作用が衰える。また葉がまっすぐに伸びず、折
れ曲がったり奇形になり、葉や枝の先端が枯死したり果実が裂実する。
モリブデン Mo 還元作用を司る酵素の主要な構成成分で、土壌中の硝酸態窒素を吸収し、アンモニアに還元して作物体内にタンパク質をつくる
働きをしている。欠乏すると下葉か中葉に黄緑色ないし淡橙色の斑点ができ、葉が湾曲してコップ状になる。
イオウ S 酸化還元系に関与し、葉緑素の生成に関係している。欠乏するとタンパク合成が阻害されるので根部の発育が衰え、養分吸収
が悪くなるとともに、茎葉が黄色くなる。
塩素 Cl 作物が光合成作用を行うとき、酸素の発生を行う酵素作用を助け、炭水化物の移動に関係している。欠乏すると葉の先端が黄
化するが日本では塩素の欠乏はほとんど起こらない。
ケイ素 Si 水稲の生育には欠かせないミネラルで水稲との関連の研究は多い。最近水耕栽培でトマト・キュウリなどの生育に関連した研究
も行われている。
<各欠乏症状の見分け方>
Mn欠乏の葉 葉脈の間が黄色くなる。全体的に葉が黄色くなり、葉脈が緑色を増す。
Zn欠乏の葉 葉脈の間が黄白色となり、肋骨状の鮮明な斑点が見える。
Fe欠乏の葉 葉脈を残して全体が均一に黄化し、ひどくなると黄白色になる。